2007年11月27日火曜日

社説の勉強 2007/11/27

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20071126AS1K2600126112007.html

社説1 保守分裂がどう響く韓国大統領選(11/27)

 来月19日の投開票に向けた第17回韓国大統領選挙の候補者が出そろい、公式な選挙運動が27日から始まる。保守系の野党が10年ぶりに政権を奪回するかどうかが最大の焦点だ。国際社会は次期大統領が核問題や拉致問題を抱える北朝鮮にどのような政策で臨むかを注目している。選挙結果は今後の東アジア情勢にも大きな影響を与えるだろう。

 韓国の大統領選は5年に1度で、今回は盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の後継を選ぶ。26日に締め切られた候補者登録(公示)で、大統領選史上最多の12人が出馬した。現政権を支える進歩系と野党の保守系とも候補者の一本化に失敗し、例を見ない候補者乱立となった。

 有力候補は最大野党ハンナラ党の李明博(イ・ミョンバク)前ソウル市長、進歩系旧与党・大統合民主新党の鄭東泳(チョン・ドンヨン)元統一相、11月になって急きょ名乗りを上げた無所属の李会昌(イ・フェチャン)元ハンナラ党総裁の3氏とみられている。

 26日付の韓国紙、朝鮮日報が報じた世論調査結果によると、主要候補の支持率は李明博氏が38.3%とトップで、李会昌氏が19.3%、鄭氏が14.4%と続く。回答者のうち政権交代が必要は57.6%(前回6月調査は56.5%)で必要ないの15%(同27.9%)を大きく上回った。

 ただ、韓国大統領選は土壇場で情勢が変わり、事前の予想を覆す事例が続いている。李会昌氏は盧武鉉氏と一騎打ちとなった前回2002年にハンナラ党から出馬し優勢と伝えられながら、結局は得票率2.3ポイント差で敗れた。李会昌氏は前々回1997年も金大中氏に同1.6ポイント差で振り切られ、苦杯をなめた。

 それでも今回、3度目の挑戦をしたのは「土壇場の逆転」を期待しているのかもしれない。保守系も2人の李氏が立候補して分裂選挙となったが、最有力の李明博氏は株価操作事件への疑惑が浮上しており、選挙戦に不利との見方もある。

 北朝鮮政策を巡っては元統一相の鄭氏が盧大統領の「太陽政策」を継承する立場だ。これに対し李明博氏は北朝鮮の核廃棄を前提としながら改革・開放に導く路線を唱える。李会昌氏は北朝鮮政策を基本から見直すと主張する強硬派だ。

 仮に保守系候補が勝利すれば、金前大統領、盧大統領と2期10年続く北朝鮮への融和的な政策は軌道修正される公算が大きい。次期大統領は北朝鮮の全面的な核廃棄に向け、関係諸国とよく連携してほしい。

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20071126AS1K2600326112007.html

社説2 生保は信頼を取り戻せるか(11/27)

 大手生命保険9社の2007年度上半期業績が出そろい、本業のもうけに当たる基礎利益は前年同期比で約4%減と5年ぶりの減益になった。保険料収入も減った。保険金の不払い問題の調査に人材を振り向けて営業が手薄になったほか、顧客が生保不信を募らせた影響も表れた。

 いわば構造的な生保離れを映す内容である。生保各社は最前線である営業職員の再教育や顧客に配慮した説明の強化などの対策を打ち出すが信頼回復は容易ではないだろう。

 生保業界は10月に01年度から5年間の保険金不払いや支払い漏れの調査結果を発表し、中堅・中小を含めた全38社で不払いは120万件、総額は910億円にのぼった。07年度上半期は、この長年に及ぶ不払い問題のウミを出すのに追われた期間だったといっていい。

 最大手の日本生命保険は上半期の4―9月で調査のために人件費、物件費など78億円を投じ、不払いだった保険金を105億円払った。この出費自体は業績の数字を大きく左右する規模ではないが、顧客の信頼を失った影響は小さくない。

 大手9社で新契約の年換算保険料は17%近くの大幅な減少になった。新契約のほか、保有契約の年換算保険料も大手生保のほとんどでマイナスとなった。若年人口が減り、柱だった死亡保障保険の市場規模は先細りが明白だ。各社は医療保険などの第3分野や年金保険などを新たな収益源にしようと躍起だが、十分な成果は出ていない。

 外資系生保や共済などが扱う、安い保険料で簡素な設計の保険に顧客が流れる傾向もある。大手生保は消耗戦につながるとして否定的だが、営業体制を見直して効率を上げれば保険料を下げる余地も出るのではないか。契約者への利益還元の充実も急ぐべきだ。

 不払い問題で営業職員が確認作業に追われた結果、新たに顧客の要望を発掘できた例もあるようだ。内外の景気に不透明感が増しており、株価下落などで運用環境も悪化する可能性がある。適切に保険金を支払うのは当然だが、それにとどまらず顧客の側に立った商品を提供し、銀行窓口など多様な販路も生かすことが、生保業界の将来を左右する。

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20071126AS1K2600226112007.html

春秋(11/27)

 2つのとき東京から新潟・長岡に移り17までの多感な時期を雪国で過ごした堀口大学に、突然始まる山の冬を詠んだ短詩『夢のあと』がある。「越(こし)の山里冬早み/紅葉(もみぢ)がうへに雪降りつ/昨日(きそ)錦繍(きんしう)の夢のあと/今日白妙(しろたへ)のわがおもひ」

▼9月の残暑がひどかったせいで全国的に紅葉前線の訪れが遅れ気味の晩秋に、新潟・長野県境や東北、北海道から、この詩のとおりの雪の便りがしきりだ。11月に降った雪の深さを累計すると25日まででもう1メートルを超えた観測地点が十数カ所あり、積雪も11月としては過去最深になった所が続々出ている。

▼昨冬は気味の悪いほど暖かくて、12月から2月までの全国の平均気温は史上1位タイを記録した。雪も少なく、1月は新潟や仙台、金沢など7カ所で観測を始めて以来の「降雪のない正月」になった。12月から2月の累計降雪量が過去最少を更新したのも、今、早い冬に震える地域を中心に20地点を数えた。

▼異常暖冬から一転、本来の季節の運びに戻ったか、と思うのは早計らしい。寒気団が南下しやすくなっているのは、日本に異常気象をもたらすラニーニャ現象のせいだそうだ。大学の詩『自らに』にある「雨の日は雨を愛さう。/風の日は風を好まう。」という心境には、温暖化が心配な現代人は、なれそうにない。

http://www.asahi.com/paper/editorial.html

暴力団抗争―こんな無法を許すな

 住宅地や商店、さらには病院にまで押し入って傍若無人の抗争を続ける暴力団に改めて憤りがこみ上げてくる。

 佐賀県武雄市の病院に入院中の自営業者が射殺された事件に絡み、暴力団道仁会系の組員が逮捕された。道仁会は福岡県久留米市に本拠を置き、組員が700人を超える九州最大規模の暴力団だ。

 同じ病室には事件の半月前まで、道仁会と抗争を繰り広げている九州誠道会系の関係者が入院していた。自営業者は間違われて犠牲になった可能性が高いという。人違いで殺されたとすれば、こんな理不尽なことはない。

 先週末には、福岡県大牟田市の病院の玄関前で、九州誠道会系の暴力団幹部が射殺された。

 暴力団の抗争が市民の生活の場にまで及んでいるのだ。市民が巻き添えになることは決してあってはならない。警察はあらゆる法律を使って双方の組織を摘発し、抗争を封じ込めるべきだ。

 抗争の発端は昨年5月、道仁会の会長の13年ぶりの交代だ。新しい会長に不満を抱いた傘下の組織が離脱し、九州誠道会を結成した。誠道会は組員300人余り。銃や刃物を使って互いに相手をつけねらう事件が福岡県だけでなく、佐賀、長崎、熊本県で相次いだ。

 その対立が一気に高まったのが今年8月、福岡市内で道仁会の会長が射殺されてからだ。翌日未明には九州誠道会系の暴力団会長が熊本市内で撃たれ、重傷を負った。武雄市や大牟田市の病院での事件は、そんな流れの中で起きた。

 抗争は収束する兆しもない。それどころか、さらに気がかりなことがある。日本最大の暴力団である山口組の一部がかかわっている疑いが出ているのだ。

 道仁会は1986年、山口組と対立し、抗争に発展した。このときには、双方の襲撃61回、死者7人、負傷者17人という記録が残っている。

 山口組は今回の抗争に介入しないことを表明している。しかし、九州誠道会に肩入れして動くようなことになれば、対立がさらに広がる恐れがある。

 そんな泥沼の事態にさせないためにも、各県警はとりわけ銃の摘発に力を入れるべきだ。抗争事件は銃の摘発の好機ともいえる。これを機に、道仁会と九州誠道会を壊滅に追い込むぐらいの決意で取り組んでもらいたい。

 道仁会などに限らず、暴力団を追いつめるには、資金源を締め上げることが欠かせない。いまや暴力団は普通の経済活動を装って金融の世界などにも進出している。警察は金融庁とも連携し、資金面の取り締まりを強める必要がある。

 暴力団対策法が施行されたのは92年だった。いま全国の組員は準構成員を含めて約8万5000人で、法の施行時からほとんど減っていない。

 今回の抗争は始まって1年半にもなる。いつまで暴力団の無法を許すのか。警察の力量が問われている。

豪政権交代―「米国追従」からの脱皮

 オーストラリア総選挙で野党の労働党が自由、国民両党の保守連合に圧勝し、11年ぶりに政権奪還を果たした。

 新首相となるラッド労働党首は外交官出身で、50歳という若さだ。96年から政権の座にあったハワード首相は自らの選挙でも落選し、政界引退を表明した。

 選挙戦で争点として注目を集めたのは地球環境問題とイラク戦争だった。

 ハワード政権は地球温暖化対策には消極姿勢が目立ち、温室効果ガスの排出規制をめぐる京都議定書に署名しながら批准を拒否した。その意味では、議定書から離脱した米国のブッシュ政権にとっては「非京都」の力強い仲間でもあった。

 しかし、豪州は去年、今年と2年連続で激しい干ばつに見舞われ、小麦やコメなどの穀物生産が大打撃を受けた。住宅の断水も続いている。

 これに対し、労働党は地球環境問題での政権の無策ぶりを批判し、京都議定書の批准を公約に掲げた。多くの先進国が温暖化対策への取り組みを強めるなかで、有権者の意識も高まりつつあり、労働党の大きな追い風になった。

 ラッド氏は年明けから京都議定書の批准作業に入る方針だ。アジア太平洋の有力国であるオーストラリアが議定書に復帰することを歓迎する。今後の「ポスト京都」の枠組みづくりに向けても大きな弾みになるのは間違いない。

 もう一つのイラク戦争についても、ラッド氏は「過ち」と明言し、イラクに駐留させる約1500人の豪軍の段階的撤退を主張した。まず約550人の戦闘部隊の引き揚げについて、米国と協議する意向だ。

 先ごろの総選挙で政権交代したポーランドでも、トゥスク新首相が約900人の部隊をイラクから完全撤退させる方針を表明した。今回の豪州の政権交代を含め、ブッシュ米政権が打ち出した「有志連合」の凋落(ちょうらく)はもはや覆いがたい。

 ラッド氏は「米国追従」とハワード政権を批判したものの、米国との同盟を「中軸」と位置づける基本路線は変えないとしている。アジアにもっと目を向ける一方、前政権ほどの「対米傾斜」は脱皮しようということだろう。

 経済政策でも大胆な軌道修正は掲げなかった。こうした穏当さが政権交代への有権者の不安を除き、支持を広げることにつながったようだ。

 米国、アジアとの共鳴外交をうたっている福田首相とも通じるところがありそうだ。ともに米国の同盟国であり、この地域の安定と繁栄に共通の利益を持つ。両国が協力することで成果を上げられるテーマは少なくない。東アジア共同体構想の推進はその一つであり、日豪の連携が求められている。

 地球環境問題に熱心な政権が生まれるのも心強い。来年の洞爺湖サミットの重要テーマでもあり、米国や中国、インドを引き込んでいく日本の環境外交のパートナーとして協調を深めていくべきだ。

http://www.asahi.com/paper/column.html

天声人語

2007年11月27日(火曜日)付
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 映画「卒業」の製作から40年だという。大学を出て帰郷したベンが、幼なじみのエレーンと恋に落ちる。訳あって、他の男と結婚式を挙げる彼女を教会から奪い去る場面は、サイモン&ガーファンクルの音楽とともに映画史に刻まれた▼ベンを演じたダスティン・ホフマンが、年を重ねた今の姿で教会へと車を飛ばすCMがある。曲は懐かしのミセス・ロビンソン。今度は花嫁の父親役で、連れ戻した娘に一言、「ママの時と同じだ」。出世作をパロディーにしたドイツ車アウディの広告(日本未放映)だ▼新宿の映画館で、夜を徹して世界のCM500本を見た。全国を回る有料イベントで、9年目になる。始発が動くまでの7時間、約千人が50カ国の創意を堪能した▼字幕いらずの爆笑編からエイズ予防の社会派まで、一つの映像として楽しめる作が多い。毎年、興行が成り立つ理由が分かった。ただ、日本のCMは15秒か30秒と短い。商品と芸の両方を見せるには窮屈なのか、物語の妙より旬の人気者に頼る傾向を感じた▼CMは見せ方次第で逆効果にもなると、先ごろの記事にあった。慶応義塾大学、榊博文教授らによる「山場CM」の調査だ。「驚きの結末はCMのあと!」といった中断は86%を不愉快にさせ、そのCMの商品も34%が買いたくないそうだ▼巨費を投じて嫌われては、広告主はたまらない。効果を冷徹に測る企業が増えているのは当然だろう。どう楽しませ、かつ買わせるか。時には、見る者の心を鮮やかに奪い去るような一本に出会いたい。

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