2008年3月10日月曜日

空港外資規制は誰のためか

外資による空港関連会社の株式保有比率を、3分の1以下に制限する――国土交通省が目指したこんな外資規制の導入は、今国会ではひとまず見送られることになった。09年度以降に予定されている成田空港の上場・完全民営化までに、あらためて協議される見通しだ。

 導入を目指した理由は大きく二つある。一つは外資に支配されることで、安全保障上の懸念が出てきたこと、もう一つは独占的な利益が追求され、利用者の利便性が失われるおそれがあるというのである。空港は代替のきかない国家の重要インフラであるだけに、こういう事態は避ける必要がある、という理屈だ。

 たしかに海外でも、空港に規制を導入している例は少なくない。米国やフランスなど多くの国では、民営化せずに国や自治体などが管理している。あるいは中国の北京国際空港や豪州のシドニー空港のように、運営は民間企業ながら過半の株を政府が保有するなどの規制を設けているところもある。民間の運営で、かつ規制のない空港は、英国のヒースローなどごく少数だ。ちなみに同空港は現在、スペイン企業の傘下にある。

 だが日本では、与党内や閣内、経済界から導入反対論が相次ぎ、法案の提出は見送られた。人口減少や低成長、財政難という大きな課題を抱える日本にとって、外資を誘導することは不可欠な成長戦略だ。それを阻害するような規制を設けることは、まさに自らの首を締めるようなもの、というわけである。

 しかし、そもそも、なぜ規制の対象が「外資」なのかがわからない。悪意のある資本を警戒するのであれば、それは国内外を問わないはずだ。リスクを避けるなら、海外の多くの空港と同様、最初から上場などしなければいい。あるいは発行株の一定割合を国が保有するといった規制で十分ではないか。民営化して財政負担を軽くしたい、なるべく多くの株を発行して資金を集めたい、でも外資がまとめて買うのはダメ、ではムシがよすぎる。まるで攘夷思想だ。

 国交省がこの規制の導入を急いだのは、羽田空港のビル運営会社の株をすでに豪州のファンドが約20%保有しているからだといわれている。危機感の表れともいえるが、見方を変えれば"事後介入"の印象も拭えない。しかも空港関連施設とはいえ、滑走路や管制塔ではなく、あくまでも商業ビルの話だ。仮に外資の傘下に入ったとしても、安全保障上のリスクがあるとは考えにくい。

 じつは同ビル運営会社も成田空港も、国交省OBの重要な天下り先になっている。外資を排除したいのは、その確保のためではないかとさえいわれている。仮に買収されても、それが国内企業なら手なずけることができる、という自信の裏返しかもしれない。

 先月末、福田総理はダボス会議での講演で、「対日投資、貿易手続き、金融資本市場の改革等の市場開放努力をいっそう進め、日本を世界とともに成長する国」にすると宣言した。その舌の根も渇かぬうちの昨今の外資規制論議を、当の外国資本はどんな思いで見ているだろう。もはや、日本に注目する外資など希少かもしれないが。

(島田栄昭 しまだ・よしあき=『日本の論点』スタッフライター)

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