「素人的に考えると、(漁船が)レーダーに映らなかったのか。万一、自爆テロの船だったらどうするのか」 (毎日新聞2月20日付)
渡辺喜美・金融行革担当大臣
2月19日早朝、千葉沖で自衛隊のイージス艦が漁船と衝突、乗っていた親子2人が行方不明になった事件を受け、閣議後の記者会見で海自の危機対応能力に疑問を呈した。
漁船と衝突したイージス艦「あたご」は、全長165m、幅21m、排水量7750tの国内最大の護衛艦。ハワイ沖で対空ミサイルSM2の発射訓練を行い、3カ月ぶりで神奈川県・横須賀に帰港する途中だった。
防衛省の当初の発表によると、あたごは衝突の2分前、海上にぼんやりとした緑色の光を確認したが船舶とは思わず、緑の光が加速して目の前を横切ろうとした1分前に、はじめて船舶だと気づいたという。このとき二つの船の間は約100m。漁船は右に大きく舵を切り、あたごも全力で後進をはじめたが、惰性で前進し、そのまま、あたごの船首右部分が漁船の左側面に激突したということだった。
転覆した漁船は、マグロはえ縄漁船「清徳丸」。仲間の船と船団を組んで、勝浦市・川津港から三宅島方面に向かう途中だった。海上衝突予防法によれば、あたごが清徳丸を右に見ていたとすると、あたご側に回避義務がある。このため横須賀海上保安部は、19日夕、業務上過失往来危険容疑で、横須賀基地に接岸しているあたごの艦内を家宅捜索し、事情聴取を開始した。
イージス艦の「イージス」とは、ギリシャ神話にでてくる、ゼウスが娘に贈った盾を意味する言葉だ。100以上の敵のミサイルや航空機を同時に探知・捕捉、コンピューターで瞬時に解析しミサイルで迎撃するというシステムをもつ最新鋭の護衛艦で、日米両国が進めるMD(ミサイル・ディフェンス)の中心的存在である。
船団が帰港した後の記者会見では、外記栄太郎組合長が「ミサイルを瞬時で打ち落とせるような優秀な船が、なんで漁船に気づかなかったのか。自衛隊には、たるんでる、と文句をいいたい」と憤った。行方不明になった乗組員2人の安否が気がかりだが、国民のなかには、冒頭の渡辺行革担当相と同様の感想をいだいた人も多かったろう。
防衛省は20日夕方になって、あたごの見張り員は衝突12分前にすでに漁船の灯火を視認していたと訂正した。直前まで回避行動をとれなかったのはなぜか、が今後の捜査の焦点だが、専門家の間では、視認したのは12分よりももっと前ではないかという見方も出ている。
事故後、石破防衛相は、自身に一報が届くのに1時間半もかかったことを「遅い」として「とりあえずの第一報は、もっと早く入るべきだ。危機管理上もっと時間は短縮できるはずだ」と防衛省の対応を批判した。その後、省内の連絡体制の抜本的な見直しに言及しているが、いまのところ辞任する考えはなさそうだ。
1988年、「なだしお事件」が起きたときには、瓦力防衛庁長官が引責辞任している。防衛省の綱紀の緩みが構造的な原因だとすれば、その責任は、まさにその長たる大臣に帰するはずである。すでに野党からは辞任要求が出されており、与党からも「処分はあってしかるべし」(北側公明党幹事長)の声があがっている。
福田首相は「自衛隊、防衛省の人は、何が大事かということをよく考え、どう対応すべきかを考えてほしい」と感想をもらしたが、まるで他人ごと、TVコメンテーターのような発言だった。イザというときの自衛隊の最高司令官は、福田首相本人なのである。石破防衛相の辞任があろうがなかろうが、今回の事故が福田内閣にとって強い逆風となることは明らかだ。
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