2008年2月26日火曜日

[基礎知識]福祉の担い手にふさわしいのは国か、企業か?

[企業福祉についての基礎知識]
[基礎知識]福祉の担い手にふさわしいのは国か、企業か?



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企業福祉の歴史にみる日本の特徴
 海外ではあまり見られない日本の退職金制度は、江戸時代の商家で行われていた暖簾分けが起源だといわれる。長年忠実に勤めた奉公人に資金や商品などをわたして独立させるこの暖簾分けが、やがて退職者にまとまった金銭をわたす制度に変わったのである。
 明治に入り、人里離れた土地での作業となる炭坑や鉱山などで、住居などの生活施設を用意したことが、近代の企業福祉の始まりである。これは世界的に共通している。
 大正から昭和にかけて、大資本企業を中心に、住居や医療などの福祉が広がったが、西欧ではやがて福祉は国の施策へと移行していったのに対し、日本ではあいかわらず、福祉は企業が担う状況が続いていた。福祉に企業が介入して生活を縛られるのを嫌った西欧の職能別労働組合と異なり、企業内組合が多かった日本では、企業が提供するサービスを受けることに、抵抗が少なかったからである。
 戦後の高度成長期には、地方から都市へと大量に人が移動したが、このときの住居確保も企業が担ってきた。そして文化・レジャー・体育施設など福祉分野が広がり、退職後の生活保障はもちろん、なかには墓を提供する例もでてくるほど、企業は社員と家族を丸抱えしていった。もちろんそれができるのは大企業のみだから、「いい大学をでて、いい企業に入社して、一生安泰に暮らす」という志向が、社会に蔓延することとなった。
 このように、日本の企業福祉は、終身雇用、年功序列の日本型経営とともに歩み、それを下支えする存在だった。


始まった企業福祉からの撤退
 日本経団連が二〇〇五年一月に発表した「福利厚生費調査結果」では、企業が負担する従業員一人一ヵ月あたりの福利厚生費が一〇万円台になり、過去最高を示した。福利厚生費と退職金を合わせると、現金給与総額の三分の一を超えている。こうした企業福祉の財政圧迫、そして日本型経営の崩壊のなかで、企業福祉は見直しを迫られ、一部の福祉事業から撤退する企業が相次ぐようになった。
 たとえば松井証券は〇二年から、退職金制度を全廃し、その分は給料に上乗せするという変革を遂行した。そのさいは、社員をいったん全員退職させて退職金を支払い、希望者は翌日に退職前と同じ条件で再採用するという形式をとっている。同社は、退職金だけでなく、財形貯蓄や住宅貸付金規定も廃止した。松井道夫社長は、インターネットの経営情報サイト「イノベーティブワン」で、〈企業と個人は互いに自立してなくてはなりません。社員が企業に従属する必要は何一つないのです。だから会社が人生を丸抱えするような制度は一切採りません〉ときっぱり述べる。
退職金制度から切り替えられたものに、企業年金がある。基礎年金、厚生年金の公的年金に加えて企業が支払う年金で、企業本体から独立した厚生年金基金が運用・管理している。しかし基金は運用利益がなかなか得られず、大半の企業が積み立て金不足に陥っているのが現状である。そのため、厚生年金基金を解散する企業が相次いでいる。
 かわって注目されたのが、〇一年に創設された確定拠出年金制度(日本版401k)である。厚生年金基金が、支払われる年金額があらかじめ決められているのに対し、確定拠出年金制度では、加入者が運用方法を選択し、その結果によって受け取れる金額が異なってくる。将来設計を自己責任で管理する、いわば自立型の年金である。

カフェテリアプラン
 企業福祉の見直しが迫られる背景には、提供サービスと社員が求めるサービスに、ミスマッチが生じてきたこともある。価値観やライフスタイルが多様化し、企業福祉に対するニーズも分散するようになり、一方で社員旅行や各種企業内の宴会などを拒否する社員も多くなった。また、場所的に施設が利用しにくい社員がいたり、本社の社員だけに便利だといった不公平感もでてきている。
 そこで九〇年代後半からカフェテリアプランという手法が登場してきた。もともとアメリカで開発されたもので、勤続年数や資格等級などに合わせて、各社員に持ち点を与え、その範囲内で希望する福利厚生制度を選択して利用するシステムである。
 法的規制はほとんどないので、導入企業はそれぞれ独自の方式をとっている。提供サービスの全メニューを選択制にしている企業もあれば、西友のように、昼食費補助などの固定メニューと、自由選択できるメニューとを並立させている企業もある。伊勢丹のように、五〇%を自己負担にしている例もある。
 ただカフェテリアプランは、ポイント管理などの新たな業務の発生や、年金、医療、有給休暇などが組み込みにくいこと、従業員の需要を喚起してしまい、思わぬ負担増があるかもしれないことなどから、それほど広まっていないのが現状である。


今後の企業福祉
 (財)生命保険文化センターの西久保浩二氏は、著書『戦略的福利厚生』(社会経済生産性本部生産性労働情報センター刊)で、今後は企業福祉を経営戦略として生かすべきだという。成功例としてあげているのが、進研ゼミで知られるベネッセ・コーポレーションである。同社は、企業託児施設の設置をはじめ、育児短期間勤務制度、介護時短勤務制度など、企業福祉を女性の働きやすさに特化した。その結果、女性にやさしい職場とのイメージが浸透し、優秀な人材を確保してきた。〈その価値ある経営資源が、介護ビジネスや育児・介護支援ビジネスなどの新しい事業戦略をいち早く選択させた〉。
 一方、社会保障と環境を結びつける社会モデルの構築を提案しているのは、千葉大学の広井良典教授である。社会保障は国家が担うが、あらゆる分野を手厚くするのは無理なので、医療や福祉に重点を置く。そして労働への課税から資源消費への課税へと考え方を変え、環境税を設けて財源にすれば、企業負担の軽減につながるとする。

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